塩原先生の観察力と保育を偲ぶ　（１）
　　「あの園児は、ずっと“何か”が気になっていました」

　2016年12月、元杉並区公立保育園園長塩原ゆかり先生がご逝去されました。
後輩である私たち保育士が先生を偲んでその卓越された保育観を思い出し、記述することにしました。

保育所にて0歳児保育の始まり

　1990年代、0歳児保育がとうとう正式に始まった。
K保育園では塩原先生が園長に着任され、保育士4名に看護婦が配置され。12名の枠が満杯での発足であった。
私は別の園に務勤していたが、時に０歳児の話をうかがう機会があった。

入園した0歳児に何か異変？・・

　健康診断を経て4月から始まったその中に9か月の女児Mちゃんが居た。塩原先生は、この子に初めて会った日から‥ん、・・ん？・・なにか、何か違うものを感じた。と仰る。
「どんな風にですか？」
「それがね、何か、どっか、この子の持っている雰囲気というか・・何か、何かなのよ」

健診では合格。しかし、何かが・・と気になる塩原先生

　入園健診では園医先生に、「どこかがなにかちがう感じがする」ことを述べたが、「いや、いや体もみんな大丈夫ですよ」とのことで入園決定となる。
ベテラン看護師、保育士たちにもMちゃんへの違和感を伝えたが、誰一人何も感じなかった、という。
その後何も起こらず、０歳組みなすくすく育っていったがしかし・・それは入園６か月後の９月のこと・・
滑り台の途中からすべらせるー、という遊びを始めた時に起こった・・

怖れは、本当に現れた

　「滑り台上に抱いて座らせたら顔をこわばらせて後ろへひっくり返った」
驚いた保育士たちは、がちがちに固まった子の体をかかえて室内に走りこんだ。
その後の検査で、診断された病名は、「てんかん」
　それまでの状態は全く他の子と変わらなかった。滑り台のあの日、突然引き起こした発作だった。
転げ落ちないで良かったが・・

塩原先生の鋭い予感は

　「何かが違う」と気づかれた塩原園長先生のなぜか・・は不幸にして癲癇の発作ではっきりした。
塩原先生は、ことが起こるまで、人知れぬ怖れや、不安のようなものがあった、という。
保育者間で例えようのない何か、を感じられるという話は、あまり聞いたことはない。
人智以外のカン？何々感？こういう、「神ってる」っていうのか。このような特殊な能力をお持ちの先生に、園児への観察力についてもっともっと教えていただきたかったと思う。
塩原先生には、保育士を越えた保育の力が宿っておられたことを、時に、このように感じさせられた。